歴史
-
青田買いの若旦那 - 第一章:青田の夢想
> 第一章 青田の夢想 真の商人は先も立ち、我も立つことを思うなり —石田梅岩『都鄙問答』より 一、堂島の朝霧 享保十九年、秋。朝霧が堂島川の水面を這うように流れる刻限に、播磨屋伊之助は米会所への石畳を踏みしめていた。二十二の若さで既に家業の一翼を担う身でありながら、彼の胸に宿るは父祖伝来の商法への静かなる反逆心であった。 「おはようさんどす、若旦那」 石橋のたもとで声をかけてきたのは、同じく米会所へ向かう近江屋の手代である。伊之助は軽く会釈を返しながら、その男の背に負われた帳面の厚みに目をやった。 …