心理
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共感者 - 第一章:音の記憶
> 第一章:音の記憶 ささ……さら……さら…… あなたの指先が白い紙の上を這う。ペンの先端が紙面に触れる瞬間の、あの微細な摩擦音。 ささ……さら……さら…… 北川澪は患者記録に向かい、今日も同じリズムで文字を刻んでいく。病院の心理カウンセリング室は午後の陽光に満たされているが、彼女の内側はひんやりとした静寂に包まれている。 「田中雅 …
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共感者 - 第三章:多重世界
> 第三章:多重世界 り……り……り…… 電話のベル音が、澪の睡眠を切り裂く。 午前4時17分。デジタル時計の赤い数字が、暗闇に浮かび上がる。 澪は受話器を取る。 「はい……」 「先生、助けてください」 声の主は田中雅彦だった。しかし彼の声は、電話線を通じてではなく、澪の内側から響いてくる。 り……り…… …
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共感者 - 第二章:侵入
> 第二章:侵入 ぴ……ぴ……ぴ…… 目覚まし時計のアラーム音が、澪の意識を現実に引き戻す。 午前6時。いつもの時間。いつもの音。 しかし、澪の身体は昨夜の夢の重さを引きずっている。白い廊下の感触が、まだ足裏に残っている。 ぺた……ぺた……ぺた…… 素足で冷たいフローリングを歩く音。澪は洗面所へ向かう。鏡に映る自分の顔を見つめる。 目 …
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共感者 - 第五章:無意識
> 第五章:無意識 あなたは……あなたは……あなたは…… 声が複数同時に響く。 澪の拡散した意識の中で、無数の「あなた」が澪を呼んでいる。 幼い頃の澪、学生時代の澪、カウンセラーになりたての澪、そして——存在したことのない澪たち。 あなたは……あなたは…… それは呼びかけではない。確認だった。 自分という概念の最後の断片を、集合意識の海か …
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共感者 - 第六章:現実
> 第六章:現実 り……り……り…… 電話のベル音で目覚める。 あなたは手を伸ばし、受話器を取る。 「はい、北川心理相談室です」 あなたの声が、澪の声と重なって聞こえる。 ささ……さら……ささ……さら…… あなたの指先が白い紙の上を這う。ペンの先端が紙面に触れる瞬間の、あの微細な摩擦音。 さ …
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共感者 - 第四章:改変
> 第四章:改変 ぽ……ぽ……ぽ…… 液体が滴る音。 澪の意識が浮上するとき、最初に聞こえるのはその音だった。 点滴。病院のベッド。白い天井。 ぽ……ぽ……ぽ…… 澪は自分が患者として横たわっていることに気づく。腕に刺された針から、透明な液体が血管に流れ込んでいる。 「お目覚めですね」 声の主を探して首を動かす。白衣を着た医師が立って …