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死にましたが、ドナルド・トランプとして上手くやってます

tags: 小説, 転生, ファンタジー, 政治, パロディ, ライトノベル
@神楽木アキ 27/07/2025

第一章 転生

俺の名前は安達廉太郎。27歳、無職。正確には元無職だ。なぜなら昨日、トラックに轢かれて死んだからである。

そして今、俺は鏡を見つめながら困惑していた。鏡に映っているのは間違いなくドナルド・トランプの顔だった。オレンジ色の肌、特徴的な金髪、そして誰もが知っているあの表情。

「What the hell…」

口から出たのは流暢な英語だった。俺の英語力はTOEIC600点程度だったはずなのに、なぜかネイティブレベルで話せている。

部屋を見回すと、ここは明らかにホワイトハウスの執務室だった。机の上には大統領の公式印鑑、壁にはアメリカ国旗。そして何より、ドアの向こうから聞こえてくるシークレットサービスの足音。

「これは夢だ。絶対に夢だ」

俺は自分の頬を思い切り叩いた。痛い。確実に痛い。そして鏡の中のトランプも同じように頬を叩いている。

突然、執務室のドアがノックされた。

「Mr. President、午前10時の国家安全保障会議の準備が整いました」

聞き覚えのない声だが、明らかに秘書のものだ。俺は—いや、トランプは—パニックになった。国家安全保障会議?俺がそんな重要な会議に出られるわけがない。政治なんて全く分からないし、アメリカの外交政策なんて知るわけがない。

「あ、あー…少し待ってくれ」

とりあえず時間を稼ごうと思った瞬間、頭の中に情報が流れ込んできた。まるでデータがダウンロードされるように、アメリカの政治体制、現在の国際情勢、そして何より、ドナルド・トランプとしての記憶が蘇ってきた。

不動産王として築いた財産、テレビ番組での成功、そして2016年と2024年の大統領選での勝利。全てが鮮明に思い出された。いや、思い出されたというより、最初から知っていたかのような感覚だった。

「Mr. President?」

秘書の声が再び聞こえた。もう逃げることはできない。俺は深呼吸をして、ドアに向かって歩いた。

ドアを開けると、そこには見たことのない女性秘書と、2人のシークレットサービスが立っていた。彼らは俺を見て何の疑問も抱いていないようだった。当然だ。外見は完全にドナルド・トランプなのだから。

「会議室でお待ちしております」

秘書の案内で廊下を歩きながら、俺は必死に状況を整理しようとした。どうやら俺は本当にドナルド・トランプとして転生したらしい。そして今は2025年、彼が再び大統領に就任した後のようだ。

会議室に入ると、国防長官、国務長官、CIA長官など、テレビでしか見たことのない重要人物たちが並んでいた。彼らは一斉に立ち上がり、「Mr. President」と挨拶した。

俺は震える手でテーブルの席に着いた。これから何が起こるのか、全く予想がつかなかった。

「では、中国との貿易交渉について報告いたします」

国務長官が資料を開いた瞬間、また頭に情報が流れ込んできた。中国との複雑な貿易関係、タリフの詳細、交渉の経緯。全てが理解できた。

そして俺は気づいた。この転生には何らかのシステムが備わっているようだ。必要な知識は自動的にインプットされ、ドナルド・トランプとしての振る舞い方も本能的に分かる。

「それで、習近平は何と言っているんだ?」

自然に口から出た言葉に、俺自身が驚いた。完全にトランプの話し方だった。

「彼は再交渉に前向きだと報告されています。ただし、いくつかの条件があるようです」

会議は予想以上にスムーズに進んだ。俺の中のトランプの記憶と知識が、適切な質問と指示を導き出してくれた。

2時間後、会議が終わると、俺は執務室に戻った。ようやく一人になれたが、現実感はまだなかった。

デスクに座り、手に取った写真を見た。そこには妻のメラニアと息子のバロンが写っていた。この写真を見た瞬間、何とも言えない感情が湧き上がった。愛情だった。これもトランプの記憶なのだろうか。

「俺は本当にドナルド・トランプとして生きていくのか…」

窓の外を見ると、ホワイトハウスの庭園が見えた。そして遠くには抗議デモの声が聞こえる。トランプという人物がいかに賛否両論を呼ぶ存在かを、身をもって感じた。

その時、また秘書がノックした。

「Mr. President、午後2時からの記者会見の準備はいかがですか?」

記者会見。これまでで最も恐ろしい言葉だった。全世界が注目する中で、アメリカ大統領として発言しなければならない。

「…分かった。準備しよう」

俺は覚悟を決めた。もう元の生活に戻ることはできない。安達廉太郎は死んだのだ。これからは、ドナルド・トランプとして、アメリカ合衆国大統領として生きていかなければならない。

そして不思議なことに、その責任の重さを感じながらも、どこか興奮している自分がいた。世界最強の国のトップとして、歴史を動かすことができるのだ。

「よし、やってやろうじゃないか」

俺は鏡に向かって微笑んだ。そこには、自信に満ちたドナルド・トランプの表情があった。

だが、この時の俺はまだ知らなかった。大統領という職務がいかに困難で、複雑で、そして孤独なものかを。そして、この転生には隠された目的があることを。